木のたてものがたりVol.8 茨城県境町S-PROJECT | 国産木材を活かす繋げる|MOCTION(モクション)

木のたてものがたりVol.8 茨城県境町S-PROJECT

隈研吾館長の作品選

8回目の木のたてものがたりの舞台は、茨城県境町のまちづくり「S-PROJECT」です。

今回は茨城県境町のまちづくりのために建てられたと木の建物についてご紹介します。ふるさと納税で毎年上位にランキングされる境町は、全国にファンがいる自治体です。そうした人々と町民の交流人口を拡大するために、隈研吾館長がデザインした木の建築が活躍しています。

建築家・齋⽥武亨(さいた・たけゆき)氏。

今回のナビゲーターは建築家の齋⽥武亨(さいた・たけゆき)氏です。齋田氏は2005年から2015年まで隈研吾建築都市設計事務所に在籍し、最後は設計室長を務められました。独立後は隈事務所の同僚だった奥様の本瀬あゆみさんと富山へ移住してサモアーキ(株式会社本瀬齋田建築設計事務所)を設立。地域に根ざし、環境と調和する建築作品を手掛けられています。

齋田氏は、地域創生に関わりがある建物や内装、オブジェなど、持ち前のデザイン力で地域と人をつなげるプロジェクトに多く参加されてきました。今回は境町の隈研吾施設と、齋木氏の富山県でのプロジェクトを紐解きながら、地方創生と木の建物の関係について、じっくり語っていただきます。

木がつなげ、広げていくまちづくり

― 境町のまちづくりをご覧になって、交流拠点と言われるような場所で、「木材」はどんな役割を果たしていたでしょうか。

齋⽥武亨(以下、齋田) 塀や軒、什器から、チャノキを植えたプランターボックスまで、建物と建物を結ぶ動線のあちこちに、木の板が連なっているのは面白かったです。この手軽さみたいなものは、やっぱり木の魅力だなと感じました。小物から建物までスケールを変えながら、木の連続が、街全体の印象をかたちづくっているのだと思います。

聞けば境町は歩いて散策できるまちづくりを目指しているとのこと。町の人や訪問者は、無意識に木をたどりながら散策するのでしょう。奇抜な建物や発色の強い看板をランドマークにするのではなく、町の雰囲気を邪魔しない木の建造物が人々を誘うのです。

道の駅内の通路。
地場産品研究開発施設「S-Lab」の歩行者動線。
町家の空地に建てられた間口の狭いS-Gallery 粛粲寶美術館。
道の駅の既存建物の合間に建てられたさかいサンド。

齋田 材料として木を用いることは建設作業においてもメリットがあります。今回訪れたS-Gallery 粛粲寶美術館のような狭い町家づくりの敷地や、さかいサンドのような既存の建物に挟まれた空地は、大きな重機や搬入車両が入れません。境町のように現状の区割りをそのまま利用した小ぶりの拠点開発ならばで木材は非常に建てやすいと言えます。

このため木の建物は、全国のまちづくりの共通課題である〝都市のスポンジ化(人口減少や高齢化を背景に、都市の内部で空き家や空き地が点在・散発的に発生し、都市全体の密度が低下する現象)〟対策といった、大掛かりではない小回りの効いた再生プロジェクトの有効な手段と言えるでしょう。

さらに地域材を優先的に使えば、流通や施工において地域の業者が参入しやすくなります。境町の S-PROJECT では茨城県産材が多く使われていました。地域の木を使って地域の人が拠点をつくる。魅力を感じた人が集まり、地域の人と交流して活気づく。地方創生の本質のような気がします。

古材という〝時をまとった建材〟を使う

齋田 今回の境町の隈研吾施設においては、モンテネグロ会館がそうでした。約80年前に建てられた旧モンテネグロ会館は、当時のアルゼンチン公使だったモンテネグロ氏が、境町との友好の証に私財を寄付して建てられた公民館でした。人の想いや時をまとった建材である〝古材〟は、じつに味わい深い魅力があります。

建物自体が新しく生まれ変わり、用途が変わっても、かつて利用してきた人々の記憶が残された場所になるんですね。

もちろん大型リゾート開発のような案件なら、規模やデザインを前面に押し出した建物が良いと思うし、施主からも求められやすい。

2020年に改築されたモンテネグロ会館。旧会館の古材が使われている。
現在はティーカフェに生まれ変わっている。
富山市内の雑貨店。カウンターの側板に使用されているのは、お寺の濡れ縁に使われていた古材。
店の客はカウンター越しに店長とコミュニケーションを交わす。

齋田 しかし、今ある地域の風景や雰囲気を活かした地方創生であれば、その場所で人々が暮らしてきた〝場所の遺産〟を使わない手はありません。

私のフィールドである富山市は80年前の空襲で焼けてしまって、伝統的建造物や古い建物が少ないのですが、範囲を富山県まで広げると、古材はいくつもあるんですね。

数年前。富山市内の雑貨屋さんに納めるショーカウンターに、県内のと或るお寺の濡れ縁に使われていたケヤキの廃棄木材を使ったことがありました。住職の親類である店舗オーナーから、「かつてお寺は人の集まる場所でした。ネットショッピングが隆盛する世の中にあって、これからの実店舗はものを売る場所から人の集まる場所へ変えていくべき。ぜひ寺の古材にあやかりたい」というお話を聞いて感銘を受けたことを覚えています。

木の建築と地方創生

齋田 東京の隈事務所で育った私は、10年前に地方の富山で働くことを選びました。富山には、山や海の自然はもちろん、都市にはトラムも走る。山間地には人が住まなくなった消滅集落のような環境もあります。本当にいろんな立地に溢れている中で、どんな風景を描くかということがいま一番重点を置いていることです。そういう中で、やっぱり地元の富山材をうまく使ったデザインができたらいい。

地域材を使った木の建築は、まちがいなく地方創生の要になるようなスキームだと言えるでしょう。