木のたてものがたりVol.2 京王電鉄⾼尾⼭⼝駅(2015年竣工) | 国産木材を活かす繋げる|MOCTION(モクション)

木のたてものがたりVol.2 京王電鉄⾼尾⼭⼝駅(2015年竣工)

東京にある隈研吾館長の作品選
ナビゲーター 画⽂家・宮沢洋さん
『隈研吾建築図鑑』宮沢洋 著・⽇経BP・2021年

⽊のたてものがたり第2回⽬は京王線⾼尾⼭⼝駅。⽇々、登⼭者を送り出し、迎え⼊れる駅の⾒どころを観賞しました。

年間登⼭者数が300万⼈に達し、⽇本⼀どころか世界⼀といわれている⾼尾⼭。訪れるほとんどの登⼭者が利⽤しているのが京王線⾼尾⼭⼝駅です。開業約50年を経て2015年にリニューアルされました。そのリニューアルデザインに携わったのが隈研吾MOCTION館⻑です。


デザインコンセプトは「環境と建築の⼀体化」「呼吸する建築」。
⾼尾⼭のスギ並⽊にちなんでスギ材を使い、「⼤和張り」「⽻⽬板張り」「⼩端⽴て張り」「千本格⼦」と多様な⽊組みによって仕上げられた⽊の空間は、1200年以上の歴史がある⾼尾⼭薬王院とその⾨前町という環境とまさに⼀体化した駅となりました。


今回のナビゲーターは2021年に『隈研吾建築図鑑』(⽇経BP社)を上梓された画⽂家の宮沢洋さんです。隈館⻑の建築をはじめ、たくさんの建築を⾒てきた宮沢さんならではの視点をお楽しみください。

隈建築はにぎわいに映える

― 多くの建築家と出会い、作品を観賞された宮沢さんだからこそ、したい質問があります。宮沢さんにとって隈研吾館⻑の作品とはどのような建築なのでしょうか?

宮沢洋さん(以下宮沢) まず携わった建築物の数が圧倒的に多いです。それゆえ世間⼀般で誰もが知っている建築家は、ご存命の⽅なら安藤忠雄さんと隈研吾館⻑ぐらいでしょう。
ここからは敢えて「隈さん」と呼ばせていただきますが、隈さんの建築には私たち建築専⾨家の評価軸だけでなく、圧倒的多数の⼈の⽬にさらされてきた社会的評価軸があると思います。

その中でも“ふわっとした公共空間” が特に評価されてきました。⾼尾⼭⼝駅はまさにそれ。おそらく従来の建築家ならもっと全⾯的に改修したはずです。
ところが隈さんは完全リニューアルではなく、残すところは残して柔らかく包むようなリノベーションを施しました。京王電鉄さんの要件にあったのかもしれませんが、建て替えに⽐べればずっと⼯費と⼯期を抑えられたはずです。施主や利⽤者から喜ばれる。建築家の強いエゴは出さずに、⼈々があっと驚くような好かれる空間を創る。だから隈建築はにぎわいに映えるんです。

⽊を繰り返し使って進化させる

― 隈研吾館⻑は⽊の建築をどのように捉えていると思われますか?

宮沢 ⼤きな転機となったのは2000年の那珂川町⾺頭広重美術館ではないでしょうか。⽊造にこだわらず鉄筋コンクリート造と鉄⾻造で⽊は装飾だけ。だから⽊がシャープに⾒えるんです。
世間は新しい⽊の使い⽅の魅⼒に気づきました。
多くの建築家は⼀度試すと飽きるんです。あまり同じ⼿法を繰り返さない。ところが隈さんはその後の建築においても繰り返し試しました。
そういう意味で⾼尾⼭⼝駅はいろんな⽊の張り⽅の実験成果が体現されています。たとえば⼤屋根の軒裏の⽊端(こば)。

浅草⽂化観光センター© Takeshi Yamagishi
Snowpeak Landsta4on Hakuba© IT Imagin

垂⽊を並べるのはよく⾒かけますが、板の⽊端をみせてラインを出すのは珍しい。有名どころだと浅草⽂化観光センター(2012)が最初ではないでしょうか。
上に向かっていく⼤屋根の庇も同じく珍しいです。これはスノーピークランドステーション⽩⾺(2020)において発展したかたちで試みられています。

コンコース天井の⼭並みのような⼤和張りやエレベーター室壁の千本格⼦は、今まで数多く実験してきた⽊組みの知⾒から⽣み出されたものでしょう。
伝統的技法を⽤いつつも現代建築に昇華させている。そこに隈さんの実験精神に裏打ちされた独⾃性があります。隈さんは単なる懐古趣味として⽊の建築を捉えてはいないんです。
この⼀連の技法を⽤いた仕掛けは、登⼭者を送り出し、下⼭した彼らを余韻をもって迎え⼊れる。そんなゲートの役割が演出されています。

⽊の建築は経年変化を愉しむ

那珂川町⾺頭広重美術館©Mitsumasa Fujitsuka

― ⽊の建築の観賞の仕⽅というのはありますか? 

宮沢 昨春、那珂川町⾺頭広重美術館へ再訪しました。20年前よりも圧倒的に⾵合いが出ていました。今の⽅がカッコイイですね。⽊の建築はこうした経年変化を愉しむ要素があります。皆さんもぜひご覧になってください。
また⽊の建築は何⼗年間隔かで⽣まれ変わらせるべきとも思います。姫路城だって改修しました。現存最古の⽊造建築である法隆寺五重塔は細胞が代謝するようにちょっとずつ改修されています。改修に国産⽊材や地域材を⽤いれば森林循環を促すこともにもつながるでしょう。⻑い年⽉をかけて地域の⽊材と⼈々が、地域のシンボルとなる⽊の建築を⽀えていく仕組みづくりが待ち望まれます。