スタジオ紡さんのMOCTION | 国産木材を活かす繋げる|MOCTION(モクション)

スタジオ紡さんのMOCTION

建主さんと東京の木をちゃんと繋げたい

スタジオ紡/二級建築士

林 寿子さん

建主さんやクライアントには、木は多摩産材を使って計画を進めたいんだけれどもってお話を、できるだけ早い段階にするようにしてます。知ってるのは私たちなので、そこには実はこういうことがあってこういう取り組みで進めているんですと、私たちからちゃんとお話する。実際、東京の木で作れるって伝えると「え〜そんなに材料あるの?」って言われる事もありますが、そう言う時には林産地は他に比べると小さいけれどもちゃんとあるし、製材もやってるし、施工も加工もやってますよって言う話をすると興味は持ってくれますね。

家とかを建てるときに、建築で固定された物だけじゃなくてちょっと動かせるものとか、例えばテーブルだとか茶の間の座卓みたいな物を少し一緒に設計して置いてもらうと人が来たときに「家は無理だけど、こういうテーブルいいよね」って話になる。家の広さに合わせた大きさにしてもらったと聞けば「そっか、そんな風に作ってもらえるんだ」と、何かそういう感じで興味が湧いて、「実は、これ東京の山の木でね」と言うだけでも随分違うんで。

多摩産材や東京の木を使っても、建築物ができるんだということを、今回この施設ができることで、もっと町場の方、都心の方に認識が広がるといいですね。

自分の身を置くスペースが
無機質なものでいいのか?

結局、家にいる時間よりも、オフィスとか仕事場にいる時間が多いと思うんですよね。今は、まぁリモートで仕事する状況になってしまったので、自宅でやってらっしゃる方も多いですけど。

自分の身をそのまま置くスペースが、全て無機質なものですとか、完全に空調で全部機械でやってるような空間の中にいて、本当にいいのかなっていうのも感じていて、実際、私自身がそういうところで勤められなかった。

別にシックハウスとかではないんですけれども、なんとなく疲れちゃうというのもあって。なので、オフィスなどで全部じゃなくても、例えば壁の一面だけ板をはるとか、テーブルの天板だけ無垢にするとか、そう言ったことだけでも全然違うと思うんですよね。0か100ではなくて、使えるところに使う。そういう考えが一番いいのかなって。

多くの方に、ほんのちょっと触ってもらうだけで違うし、パッと見た時に自然な木目も良いですし。何よりも東京の木でいうとスギ・ヒノキ・サワラは調湿効果もあるので、そういった意味でもオフィスの環境を少し整える感じで、みんなの気持ちをすごく和らげるような、心理的な部分でもいいのかなと。東京都さんがオフィスを木質化する取り組みは、とても賛成ですね。

東京の木で家をつくる会に
出会ったことが大きい

無垢の木を使った家づくりを始めたきっかけは、協同組合「東京の木で家を造る会」という集まりがあって、そこで私はかなり勉強させてもらいました。その後、何軒か100%多摩産材を使った家を造ることができるようになったので。やっぱり、この会に出会ったというのが大きいですね。

林業家さんと製材と工務店と建主さんが顔の見える関係で、なおかつちゃんと植林や育林をしながら家造りを考えていくと、やっぱり原点は山にあって、それをちゃんと考えて循環させようと活動していたのが「東京の木で家を造る会」なんですけど、2018年に協同組合を解散した時に、私が建主OBさんの相談先みたいな感じで窓口を引き継いだんですね。

相談やメンテナンスの話が無くなって数年経ったら、縮小して終わりにしようかなと思ってたんですけど、会に所属していた設計者の有志の方たちが、この繋がりを終わりにするのは残念だし、こういう啓蒙活動とか、実際に多摩産材・東京の木を使っていく家造りはこれから大事なんだからもったいない。有志でいいから続けましょうということで、2020年から7名の設計者が中心になって、「東京の木で家をつくる会」と改名して再始動しています。

テーブルひとつ・壁の1面から
木に触れるきっかけを作る

以前は、下地材から構造・仕上げ、全て多摩産材100%を基本としていましたが、耐震等級のこともあるので全く構造用合板を使わないのは、難しくなってきているのも現実としてあります。

無垢の木って高いイメージがあるので諦めてしまう方もいらっしゃるんですけど、例えばテーブル1つとか、置き家具1個とか、壁1面だけとか、そういうことでもいいと思うんです。そこからきっかけを作って、じゃぁ次はこっちの部屋もとか、そういう感じで理解を深めていく方法もあると思ってるので。

合理的にするというのは今の時代、大事だと思うんですけど、ただ合理的にしていい部分と、ちゃんと手をかけなきゃいけないところがある。でも実は、そこはクライアントが見えないところがほとんどなので、そこも知ってもらう。如何に価値があるかっていうことをわかっていただく。

設計者は、一番お客さん・クライアントと近い立場にいると思うので、そういう方達にお話しして、工務店の加工場に連れて行ったりとか、製材所を見てもらうとか、あと山歩きを一緒にしてもらうとか、そういう感じで、出どころはココなんだっていうのがわかるような活動を、これからも少しずつでも続けていきたいなと思っています。

木の良さを求めるなら
木の特徴も受け入れて欲しい

木は調湿するから、夏は膨れて冬は隙間が広がりますと伝えます。だから、そこは気になるかもしれないけど、それは木の特徴であって、香りだとか調湿効果だとか、触り心地とかっていう木の良さを求めるのであれば、木の特徴も受け入れてあげてくださいと言った話しもします。

実際に建てた後、やっぱり傷がつきますねって感じられても、逆に無垢の木だから足触りもいいし、子供の友達は遊びに来ると居心地よくてあんまり帰りたがらないとか、3年経っても5年経っても来た方が「わ~木の匂いがする」って驚く、ってことも建主さんはおっしゃってくれてます。

こういう多摩産材とか地元の木を使って家を建てようと考えられてる方は、食にもこだわってらっしゃって、自分たちで野菜作ったり、味噌を作ったりするんですけど、ある方は勝手口から直接土足で入れるようにパントリーを作って、そこを全部スギの板張りにして保存していたら、味噌の味が変わって美味しくなったって。

以前は団地に住んでて、北側の一番日の当たらない部屋に味噌を置いてたんですけど風味がまったく違うと。そういうことを聞くと、人間だけじゃなくて微生物もやっぱりそっちがいいんだねと思いますし。あと、前に暮らしてた家より湿気を感じないとか、頭痛がしなくなったという方もいて、気持ち的な部分もあるのかもしれないですけれども、ホントにリラックスする感じが違うんですね。